かむ力について
〜子育て座談会から〜 坂内陽子
個人懇談の頃に皆さんにご協力していただいたアンケート調査の中の「子どもの食事で困っていることは?」という問いに、「あまりかまないで食べている、かむ回数が少ない」というものが何人かの方からあげられていました。
保育園でも、少し固めのものや、よくかまないと食べにくいものを給食に出すと、子どもたちの食べ方に少し違いが出てきます。よくかんで食べている子もいれば、口の中に食べ物がたまる子、ほとんどかまずに飲みこんでしまう子、年齢が低いと口から食べ物を出してしまう子も中にはいるようです。
では、かむ力というのはいつ頃から身についていくものなのでしょうか?。赤ちゃんがミルクを飲むというのは、生まれつきもっている生きるための反射的な能力ですが、食べ物をかむというのは、生まれつき備わっている能力ではありません。繰り返し練習することで身についてゆく能力だと言われています。
それも、歯が生えてきてから、さあ、かんで食べましょうと言ってもできるものではなく、離乳食の時期がかむ力を発達させる一番の基本となる時期だと言われています。
離乳食には、初期・中期・後期・完了期があります。生後五〜六ヶ月頃が離乳食を始める目安の時期ですが、この頃はドロドロのものを口唇を閉じて飲みこめるようになってゆく時期です。七〜八ヶ月位になると舌で押しつぶして食べ物を食べられるようになります。九〜一一ヶ月位になると、歯ぐきでかむことができるようになっていきます。
このように、かむ力は必ず順を追って発達していきます。ですから、口の動きの発達に応じて、その時期に合った食べ物を与え、その時期に合った働きかけをしていくことがとても大切になります。いつまでもドロドロ状の食べ物を与えたり、逆にいきなり固いものを、大きすぎるものを与えたのでは、かむ力が身につかず、口の中にためこんだり、丸飲みしたりする原因となることが言われています。
「かむ」という能力は身につきやすい時期とそれを過ぎてしまうとかむ力を身につけるのが難しくなってゆく時期があります。一歳頃までの離乳食の時期は、最もかむ力が身につきやすい時期ですが、逆に口の中の構造が完成する一歳半〜二歳を過ぎると、かむ練習をしてもなかなか身につけるのは難しいと言われています。
保育園でも〇歳〜二歳頃までをかむ力を身につける大切な時として、とらえてゆきたいと思います。子ども一人ひとりの成長や食欲も違うので、家庭と保育者、給食室とうまく伝え合えるようにしてゆきたいと考えています。
また、どの年齢でも大切にしたいのは、いろいろな食べ物の味や食感を覚えてほしいということです。ただ固いだけがかみごたえがあるわけではありません。繊維質のもの、こんにゃくや干し椎茸などもかみごたえがありますし、「煮る」「焼く」「揚げる」など調理法によっても食感は変わります。こんなことを、少しずつでも経験していってくれればいいなと思います。また、大人でもそうですが、食欲がない状態で食事をすることはつらい事です。よく寝て、よく活動した後のごはんはおいしんだ、食事は楽しいんだという体験をたくさんしてほしいと思います。
きちんと「食べること」と向かい合うことが、かむ力を身につける第一歩なのではないでしょうか。
ここまでちょっとカタイお話をしてきましたが、普段食事をする中で頭のすみっこのほうに入れておいていただければと思います。
ここで簡単なかむ回数を増やす方法を紹介します。それは「カタカナ食」から「ひらがな(漢字)食」へ変えてみるということです。
たとえば、ハンバーグ 焼き魚、焼き鳥へ
サンドイッチ おにぎりへ
ポタージュ 味噌汁へ
こんな風に変えるだけで、かむ回数は大まかではありますが増えるそうです。こんな覚え方だと家庭でも採り入れ易いと思います。
アンケートを集計していて、保護者の方々が栄養バランスに気をつかっていたり、野菜を多くとれるようにしていたりと忙しい中でもとても頑張っているようすが見えました。
保育園では幼児の一日に必要な栄養の四〇%〜五〇%を昼食とおやつで出しています。でも献立や日によって、なかなか食べてくれない時もあれば、すごくよく食べてくれる時もあります。家庭でもそうなのではないでしょうか?
一日で、いろいろな種類の食品をとれれば(食べれば)理想的ですが、それもけっこう難しいものです。三〜四日の間に栄養バランスを合わせるくらいに考えると少し気楽に長続きできるのではないでしょうか。