社会福祉法人輝風会 風の子保育園 春風デイサービスセンター そよかぜ児童クラブ 給食室より

子どもたちへの手紙
  歴史に学ぶことの大切さ

角田山  いま巻町で、原発問題や住民投票が問われていることは、テレビのニュースで小さな君たちでさえ知っているね。しかし、本当に問われていることは、人間への深い信頼が問われているように、お父さんは思っている。
 この九月の議会にいたるまでの多くの出来事、血のにじむような町民たちの努力、それに対する権力や嘘など・・・。議会の中の様子も複雑だ。ほんとうに物事を知るには、「客観的にありのままにみること」が必要だ。自分の欲や思いから遠ざかり、冷静に離れてものをみることは、科学のためには不可欠な態度だ。そのときはじめて、ものを動かしている法則や力、条件を見つけることができる。このことは簡単なように見えるが、学問を仕事にしている人でさえ、とても難しいことだ。自分に関わることや当事者であれば、なおそれは難しい。
 この広大な宇宙に地球が生まれたのは、およそ四六億年前だといわれている。人類が誕生したのも三、四百万年前と言われている。日本歴史の中でも、国民が民主主義を手にしてから五十年もたっていない。それまでは、権力に都合の悪い人はどんなに正しくても命を奪われる社会ですらあった。長い歴史にしっかりとたって、自分の目の前にある事柄を見つめてみると不思議と勇気がわいてこないだろうか。

去年の町長選挙を出発点に、自主管理住民投票、町議選、投票条例、と瞬く間に町民の民主主義、地方自治の精神が育ってきていることに、目をみはらざるを得ない。今回の条例が改正されたことで、町民の住民投票を願う気持ちはますます明白になったとさえ思える。これからは、投票の実施を願う町民の前に、町長の真の姿が見えてくるはずだ。条例派議員が、町民の願いをうけた議会の報告を町民に行う、なんていう町が日本のどこにあるのだろうか。九月の議会のすばらしい成果と思えて、町民の一人としてとても励まされる。新しい住民自治のあり方が、少しずつ育っていることが、君たちにも後でわかるときがくると思う。
 確かに、九十日以内の住民投票がおあずけになったことは、とても残念なことだ。一人の人間のもっている時間は、はかないものだ。だからこそ、何とかしようと必死にみんながんばっている。まったく望みのないような中でさえも、人間は倒れても倒れても起きあがり、この歴史をつくってきたのではないだろうか。岩と草木におおわれた原野を切り開き、広大な農地を切り開いた目の前の景色を忘れてはいけない。少しのつまずきは、当然のこととして進んでいくべきことを歴史は教えている。

そう思うと、町民の願いである住民投票を実現したいという、お父さんたちの努力がけっして夢でないことを信じられるのか、ということになってくる。でも考えてみたまえ、君たちの暮らしの中でも何の証明もなく約束をし、相手を信じて、友達や人間関係をつくってはいないだろうか。人間の社会も、巻町の住民投票も、一人ひとりが人間への信頼を試されているのかもしれない。     (林)
 (しげ子便り第三号、一九九五年一○月発行より)

 ひとなる書房「現代と保育」44号 1998年6月 より転載

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