社会福祉法人輝風会 風の子保育園 春風デイサービスセンター そよかぜ児童クラブ 給食室より

子育ての風景

  林 武 

風景2「結果論」、後になってみれば正しいことは誰でもいえます。このような例を挙げれば、けがや事故、政治、金儲け、枚挙にいとまがありません。しかし、子育て、教育となると結果論では遅すぎます。その場、そのときをどうみるのか、どう考えるのか、子育ての現実は、とても切実です。子育て、家庭の講演や本は、「どうもいやだなぁ」と思うときがあるのは結果論、実績論が多いからかもしれません。偉い人の教訓的お話よりも、この時と地域を一緒に生活している親たちの悩みや苦労のほうが、心を引きつけられ、考えさせられるのは、こんな訳ではないかと思っています。
 しかし、過去でない、いまこの時の自分の子育てや家庭の思いを語るのは勇気が入ります。「あんな親だから、しょうもない息子に育ったんだ」と言われると思うから、自分の子育て、家庭のことはひた隠しにして、とにかく「賢い子を育てる・・・」を取り入れ、教材を買わされてしまうことも多いのではないでしょうか。
 つまり、他人のことは聞きたいが、自分のことはなかなか、というのが子育てを話し合う、本当のむずかしさです。そこで、バカな親が徒然なるままに、日暮しパソコンに向かいて、恥を省みず、自らの子どもの様子でも書いたら面白いかと思い、どこまで続くかやってみることにしました。

九月一六日 三男誕生。三九八〇グラム。とにかく五体満足でよかったが、とにかく大きい。子どもたちが何よりも喜んでいます。両親よりも、子どもの方が多数派になったということを実感できます。三人目の誕生は、子どものためにあるのかもしれません。一週間後退院。さらに一週間は、実家の母に来てもらい何とか、落ちつきました。三時間、ときには二時間半サイクルでの授乳やおむつの交換と同時に、妻もこちらも睡眠不足がはじまり、とにかく大変です。生後二週間、三週間となると子どももいろいろ発達し、要求が出てくるので機嫌がよくありません。こんなとき、赤ちゃんの発達を見つめながら子育てしていかないと、とてもつらいのではないでしょうか。子どもの発達を理解し、励ましながら子育てできれば、家族の対応もかなり違ってくるように思えます。乳幼児の発達と子育ての風景を見てみましょう。

生後一ヶ月から三ヶ月 正面の姿勢の獲得

第一段階の一ヶ月頃は、仰向けに寝ているとき、顔は常に左右どちらかを向き、顔が向いている方の腕が伸びています。顔と反対側の腕は曲がっています。まだ、自分の体の自由が獲得できない状態です。完全な寝たきりです。これを非対称性緊張性頚反射(atnr)というのだそうです。とにかく、飲んで泣いて寝るだけと言ったところです。
 第二段階になる三ヶ月頃は首も自由に目的の正面を向けるようになりました。生後二ヶ月以前と異なり、対称な姿勢を獲得しています。そこまでの発達のエネルギーは、二ヶ月のなかで準備されます。
 二ヶ月頃は非対称性緊張性頚反射が見られますが、一生懸命反対側の方に向き直ろうとしています。顔が向いている方の伸びきった手を曲げようと努力して、なんとか手を口に入れてしゃぶろうともしています。しかし、うまく口に入らなくて手は顔のあらゆるところを回ってしまいます。おかしいけれども、赤ちゃんは真剣なのでしょう。
 この時期は、おかあさんが大好きになりはじめます。なんとかおかあさんの声のする方を探そうとしています。抱っこしてくれた人の顔を移動すると顔の向きも変えるようになりはじめます。首が回らないので、視線だけを動かしてキョロキョロしていた変な目つきの一ヶ月とは違って、顔の正面でとらえるようになります。なんといっても、あやすとよく笑うようにもなってきました。大好きな家族の声(聴覚)と顔(視覚)がしっかり結合していくことが大切です。
 三ヶ月を迎えるまでは、不自由な身の上の赤ちゃんにとって、「見たいのに、姿勢が自由にとれない」、「さわりたいのに、手が自由にならない」などの人やものを求める心がめばえはじめるのに、体の初歩的自由がまだまだ獲得されていないために、イライラ(緊張、矛盾)がつのります。大切なことは、この矛盾が三ヶ月を準備する基礎になっているのです。
 家族の寝不足と赤ちゃんのイライラが混在する険悪なムードも、家庭の避けられない部分です。私もこれを久々に味わう羽目になりました。眠いとき、お腹の空いたとき、おしめが濡れているときに加えて、緊張のある時の不機嫌も増えます。しかし、そんなときは抱っこして上げると赤ちゃんの緊張もとれます。しかし、昼と夜の区別なくイライラの多いこの三男には参ります。妻も疲労が重なり風邪をひき大変です。夜の授乳とおむつ替え、赤ちゃんのイライラとつき合っていると、こちらもなかなか狸寝入りが、やりにくくなります。「いやー、たいへんだね」と一声かけることも必要です(せめて、これくらいいっておかないと、後で妻の逆鱗に触れることになるでしょう。逆鱗とは竜のあごの下の逆さの鱗にさわると怒って殺されるという韓非子の故事から、竜を天子にたとえ、天子の怒りを意味する敬語です。ここでは、妻に対する敬語と考えてください。)
 この不機嫌も発達のエネルギーであること、三ヶ月を迎えれば随分少なくなることをしっかり認識して、乗り越えることが大切だと思います。

三ヶ月から四ヶ月へ 人間関係と世界の広がりのはじまり

年末年始の帰省で群馬、山形と移動するのに、三男は風邪を引いてしまいました。生後六ヶ月までは免疫力が強いというのに、参ってしまいました。三ヶ月でもちゃんと風邪を引いてくれます。毎日、咳と一緒に母乳もほとんど戻してしまうので、心配になり病院に行くと「百日咳かもしれない」といわれるしまつです。初めての子であれば、飛び上がるところですが、そこは三人目の変な余裕があるのです。
 四ヶ月になると、すてきな笑顔が自分から出せるようになってきます。声(音)も出せるようになってきました。抱っこしようと手をさしのべると、全身、手、足、笑顔で喜びを表してくれます。ついつい抱き癖が就いてしまうのですが、自らコミュニケーションを作る意思と方法が生まれはじめたのがよくわかります。
 毎日、子育てをしている母親に代わって、私が子守をしていると、最初はいいのですが、ものの一時間もしないで泣き叫びはじめます。さらに一時間くらい泣いた後はぐったりと寝てしまいます。私としては、この三時間が限度でしょうか。母親とのコミュニケーションが確立した、発達の証です。母親が帰ってくれば、さっきの大泣きは何のその、すぐに安心して笑顔がこぼれるのです。癪にさわりますが、これも成長なのでしょう。安心できる大人の存在を自分の中につくり、自分の世界を広げはじめたようです。
 この時期、手でものをつかんでは、口でしゃぶるのが頻繁になってきました。いろいろなものの存在を確かめているのでしょう。果物の果汁が好きです。お風呂も大好きです。自分の世界を広げていくために、寝返りがはじまるのですが、我が子は体重も少なく四ヶ月で六四五〇グラム、生まれたときの巨大さはまったく影を潜めて、小振りになってしまいました。そのためか、寝返りは遅いようです。とにかく、いろんなものに興味を広げ、大人の励ましをかりて、自分の世界を広げていく時期にあるようです。
 五ヶ月、ようやく寝返りができるようになり、七ヶ月に入っきました。離乳食も食べるようになり、六ヶ月あたりからは昼夜のパターンも出てきました。脳細胞の増加がおさまるこの月頃から、人間の睡眠形態に近くなるあたりが関係があるようです。
 コミュニケーションもあやすと笑うから、コミュニケーションと笑顔を求めて、いろいろやり始めます。「飛行機」なる芸当も七ヶ月になったいま、得意技の一つです。このポーズをすると拍手と注目を浴びるのを期待して盛んにやります。しかし、あまり頻繁なので、無視すると泣き出してしまうのです。コミュニケーションをもとめはじめています。
 手もずいぶん出ます。大人の持っている物は、何でも手にします。食卓では、箸お椀、など手当たり次第に手を出しはじめました。いよいよ、外界に向かってあらゆるもの、手触り、音、歯ごたえ、視線、コミュニケーションなどを獲得しに、発達をはじめたようです。言葉も多様になりいろいろはじめていますが、まだ「だいだい」「あ、ぁ」と発声に近い状態です。母親が一番すき、大人もすきです。
 八ヶ月になるのになかなかハイハイが上手にできません。お座りはもう上手にできるのですが、ハイハイは難しいようです。しかし、立つことに対する意欲は旺盛です。ともするとハイハイよりはつかまり立ちになるようです。確かに、つかまり立ちにより、見えないものを見ようという意欲が生まれています。イナイイナイバーもとても喜びます。見えないものに対して、興味や関心が芽生えはじめ、それをまた楽しむようであれば、ハイハイやつかまり立ちも必ずできるようになると思います。
 すでに立派な歯が四本、さらに二本目も生えてきそうです。授乳も命がけです。三男は、歯で噛むのが大好きです。紐でも紙でも、人の指でも腕でも何でも噛みます。特に、相手の腕を噛んでは「イタイイタイ」といってくれるのがうれしくて、噛んでしまいます。最初におぼえた言葉(喃語)は「イタイイタイ」です。おしめを替えても「イタイイタイ」。大きくなればまた変わるのですが、変な言葉を覚えました。
 あんまり噛まれると、鉄の乳首ではないので、授乳を控えないと困ります。しかし、おっぱいがもらえないと満足できず泣き叫び、パニックです。私は「父親が子守をする精神的苦痛がよくわかるだろう」と心の中でほくそえんでいます。母乳への安心感が如何に大きいのか、よくわかります。歯が生えるのが早すぎたために断乳が、自然にいかないのは少々トラブルですが、まあ少しの間はお互い我慢が必要です。

風景1授乳と母親と赤ちゃんの関係を見てみると、父親がいくら子育てに参加しても「母親の手伝いでしかない」と思えます。三人子育てしいる実感です。長男を見ていると、学童期の終わりが近いようです。父親の本当の出番は、子どもの手がかからなくなってからくるのかもしれません。働きながら家庭を支えること、仕事、社会、人間のあり方に対する見方を大人から学ぶのは、学童期の終わりとともにはじまるのではないでしょうか。小さい頃は必死に子育てのお手伝いをし、手がかからなくなるとお稽古、塾、あっという間に受験では、いったい父親はどこに存在するのかと、自らの存在を考えて見る必要があるようです。
 九ヶ月ようやくハイハイができました。とにかく腕で進むハイハイです。母親を見つけては、平泳ぎのように床を泳いでいきます。しかし、励ましがないと直ぐ崩れます。好きな人の励ましが発達の力でしょうか。

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