社会福祉法人輝風会 風の子保育園 春風デイサービスセンター そよかぜ児童クラブ 給食室より

いっしょにいてあたりまえ

デイサービスセンターを併設して

  坂井鈴江 

春風デイサービスセンターとの交流は、玄関から始まります。玄関前に送迎バスが到着すると、乗り物大好きな二・三歳児が玄関に集まり、リフトで車椅子が降りて来る様子をじっと見ています。「おはよう」と玄関に入って来た利用者に声をかけられても、あいさつができるのは一人、二人で、あとは恥ずかしそうに笑顔で返すのが精一杯です。車椅子に触わってみたいのか、「危ないよ」の声も聞こえないのか、遠慮なくタイヤに触わります。「一緒に押してくれるの?ありがとう。」とデイサービスの職員に優しく声をかけてもらい、車椅子を押すお手伝いをしているつもりの満足そうな笑顔で「春風」までついて行きます。「荷物持つね」と声をかけるのは年長児の女の子が多いでしょうか。
 春風デイサービスセンターが風の子保育園に併設という形でスタートしたのが、平成一〇年一〇月です。デイサービスの定員は一五名、産休明けからから就学前までいる保育園の定員は九〇名で、春風デイサービスでは平成一一年度からホームヘルプ事業も始まりました。園の隣に学童保育もありますから、法人の職員数は四〇数名と大変大所帯です。

どろんこ玄関から入ってすぐに遊戯室になりますから、子ども達(二歳以上)が遊びまわっている中を通り、ゼロ・一歳児の乳児室脇の廊下を渡って一番奥のデイサービスセンターに行くことになります。園庭で遊べる暖かい時期なら遊戯室も静かですが、雨降りの日や冬は大賑わいです。朝、夕と利用者が遊戯室を通りますが、自分の遊びに夢中になっている子どもたちのこと、お互いに気を配るというより、どうしてもデイサービスの利用者が遊んでいる子ども達の間を縫って行くほうが多いようです。保育者は利用者が通りやすいよう「道をあけてね」と子ども達に声をかけていますが、四・五歳児なると「春風さん来たよ」と自分達から鬼ごっこや縄跳びをストップすることもあります。

いろんな人と接しながら大きくなってほしい

地域の声として、お年寄りが安心して過ごせる場所がまだまだ必要だし、ぜひやってみたいという夢を何度となく私たち職員は園長(理事長)から聞いていました。けれど、老人福祉には全く縁のなかった私たちは今一つ、ピンときていなかったように思います。
 デイサービスセンター建設にあたり、本格的に場所探しが始まったのを聞いて、私たちも現実のものとして感じるようになりました。地域に根ざしたいと地元の集会場等場所さがしが始まったものの簡単にはいかず、当初の計画は二転三転しました。最終的に保育園併設という形になったのは、なんとオープン予定の四ヶ月前でした。
 それから保護者への説明が行われました。園舎に増築ということは、園庭の一部分がなくなるということで、「子ども達の遊び場所が狭くなるのでは…」という心配や、保育園併設ということで、「感染症の不安」という率直な意見が出されました。
 園庭隣の学童保育の広場をこれから園庭として整備していくこと、そして感染症については老人施設の経験のあるデイサービスのセンター長から話をしてもらい、保護者の不安をなくしていきました。
 また、「子どももお年寄りも一緒にいていいと思う。いろんな人と接しながら大きくなってほしい」という願いも寄せられました。これは私たち職員の願いでもあると思います。急遽、保育園併設ということになりましたが、「特別なことではなく、日々生活する者として、赤ちゃんもお年寄りも一緒にいて当たり前」になってほしい。これが一番の願いだったと思います。

子どものことばにハラハラ......

デイサービスセンターの工事が終わり、玄関には板でできたスロープもできていよいよスタートです。このスロープは、子ども達のお気に入りの場所となり、よく遊んだり寝転がったりしています。初めは事故がない様にと車椅子の操作一つとってもお互いに必要以上に緊張したものです。保育者は、玄関に入って来た利用者の手を引いたり、危険がない様に見守ったりと自分達でできる事を心がけました。
 子どもたちも自分達の出番を見つけました。着替えのかばんをデイサービスまで運ぶのです。この手伝いは四・五歳児が喜んでやるようになりました。デイサービスの利用者や職員から「ありがとう」を言われるとますます張り切っていました。
 風の子保育園は核家族が多く、近くにおじいちゃん、おばあちゃんがいてもまだまだ若く、現役でバリバリ働いている方が少なくありません。ですから、デイサービス利用者の年代のお年寄りと接する経験はほとんどなかったかも知れません。スタートした頃は、身体が不自由な方が来ると、こちらがハラハラするようなことを言ったものです。「ねえ、おめめはどうしたの?」「手は、どうして動かないの?」…。その度に職員が病気であることや元気になろうとデイサービスに来ていることを丁寧に子ども達に話してくれました。
 でも、ある日三歳児の一人の子が玄関から入って来た車椅子の利用者を見て、「死んでるの?」と尋ねたのです。病気のため身体が動かず、顔も無表情だったので、これも経験が少ないからだろうとその言葉に驚きながらも、デイサービスの職員が病気の話をしてくれたそうです。担任だった私は後で報告を受けて肝を冷やしました。
 ところが、翌日にもっと驚くような出来事があったのです。朝、園庭で遊んでいる時、昨日の子がデイサービスの中を窓から覗いて「死んでる」と言ったのだそうです。そばにいた二〜三人の子どもも、おもしろがって「死んでる」を連発したという話を遅出だった私は後から聞いて涙がでるほど情けなくなりました。その場にいた利用者の気持ちはどうだったでしょう。すぐに注意は受けたとはいえ、これは一度、きちんと話をしようと子ども達を集めて真剣に話しました。たとえ、小さな子どもでも言って良いこと悪いことがあること。もし、自分が言われたらどんな気持ちだろう…。三歳児の子ども達は私の話が理解できたのか、それとも私の迫力に驚いたのか、それからは言わなくなりました。

併設してよかった!

一年目は、デイサービスとの交流を積極的に持ちました。二歳児は、毎日やっている手遊びを見せに行きました。歌や踊りの得意な四歳児は数人のグループを作って、何回も出かけていきました。恥ずかしがりのお年頃の三歳児は時々、四歳児のグループの仲間に入れてもらって行きました。大きな拍手をもらって、子ども達は意気揚々と帰ってきます。また、五歳児は歌ったりするだけでなく、おやつを一緒に食べることもありました。一緒におやつ作りをしたこともあります。翌年は四歳児も一緒におやつを食べました。「あのね、おばあちゃんがね、お菓子の袋を開けてくれたの。かわいい手だねって、なでなでしてくれた。」と嬉しそうに話すのを見るとこちらまで嬉しくなりました。自分達からデイサービスの扉を開けることで、身近な場所に感じてきたようです。
 デイサービスがスタートして何ヶ月かたった頃、保護者から嬉しい声を聞くことができました。「自分のひいおじいちゃん、おばあちゃんに今までより関心を持つようになった」「家族の会話の中にデイサービスのお年寄りのことが時々でるようになった」「デイサービスとの交流は、核家族でお年寄りに接する機会のない子ども達にとってとても良い」。また、利用者の家族からは「子どもがいて明るくて良い」等の声が寄せられました。ここでは書ききれないくらいいろんな事がありました。「何も保育園にデイサービスを作らなくても」という意見に、このような声は「やっぱり保育園併設で良かったんだ」と私たちの励みにもなりました。

近づいてきた保育と老人福祉

今年の四月からはお互いのことが理解できるよう月に一回、デイサービス、保育園、学童保育、調理室とそれぞれの代表者が集まって会議(部門会議)をしています。
 五月の会議で春風から「もっと保育園の子どもから来てもらいたい」と提案がありました。たしかに「春風訪問」は昨年五歳児が歌をよくうたいに行ってましたが、保育者が忙しくなった年度末以来、どのクラスもご無沙汰していました。
 春風デイサービスができてもうすぐ二年です。子ども達がおうちごっこをする脇を車椅子が通っていく光景も自然なものになっています。身体の不自由な方をみても「どうして?」と一々聞いてくることもなくなりました。けれど朝夕の送迎時だけではお互いの関心が薄れていきます。ただそばを通る人だけなら、「一緒に生活する人」にはなり得ないのではないでしょうか。
 より交流が深まるようにおやつを一緒に食べることにしたいと考え、子ども達に持ち掛けると、以前に経験があるので「やったー!」と大乗り気です。当番グループで交代して行くことを話し合って決めました。「歌もうたってほしいって言われているんだけど…。」と担任が遠慮気味に言うと「いいよ!」といつもは恥ずかしがり屋の子も大きな声で答えます。自分たちで曲名まで決める積極的な姿に私の方がびっくりしました。こういう姿にも春風との生活の積み重ねを感じました。
 利用者の中には騒々しいのが苦手な方もおられますから、お互いの生活を尊重しながら、より親しみが持てる交流を模索していきたいと思っています。

草土文化「ちいさいなかま」2000年9月号より転載

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